ソーシャルビジネスケース集

社会課題に挑戦する起業家を育てる
ボーダレスアカデミー

株式会社ボーダレス・ジャパン

図1 ボーダレスアカデミーの講義の様子

ボーダレスアカデミー1は、社会課題の解決に挑戦する起業家を養成することを目的に、株式会社ボーダレス・ジャパン2(以降は、ボーダレス・ジャパンと記載)が運営するソーシャルビジネススクールである。

⚫ ボーダレス・ジャパン

本アカデミーを運営するボーダレス・ジャパンは、社会の不条理や欠陥から生じる、貧困、差別・偏見、環境問題などの社会課題を解決する「ソーシャルビジネス」を通じて、より良い社会を築いていくことを使命としている。この使命のもと、同社は社会課題を解決する事業を生み出し続けてきた。2007年の創業以来、偏見のない世界をつくる多国籍シェアハウス「ボーダレスハウス」や、ミャンマーにおける農家の貧困問題を解決するハーブティーブランド「AMOMA」をはじめ、2016年までに8つの社会的事業を立ち上げている。
2017年からは、ボーダレス・ジャパンをグループ会社体制に移行している。これにより、社外からも広く社会起業家を募る仕組みが整い、既に事業を展開している独立経営の社会起業家や、これから事業を始めようとする社会起業家も、ボーダレスグループに参加することが可能になった。ボーダレスグループでは、グループ内で経営ノウハウや資金を共有する等、ソーシャルビジネスを成功に導くための支援体制が構築されている。
一般的なグループ経営体制3とは異なり、あくまで主体は各起業家であり、起業家は独立独歩で採用、投資、報酬、事業戦略策定・推進等の経営全般を担うのが特徴である。その背後で、ボーダレス・ジャパンは、ビジネスの立ち上げを支える「スタートアップスタジオ」と経営を支える「バックアップスタジオ」の2つの機能を設けることで、起業家を支援している4。まさに、社会起業家のプラットフォームであるといえる。
その結果、2023年現在、ボーダレスグループは世界13カ国で48のソーシャルビジネスを展開し、貧困、差別・偏見、環境問題等の様々な課題解決に貢献している。同グループの2022 年度の売上は、75億円にのぼる(資料2)。

⚫ ボーダレスアカデミー

ボーダレス・ジャパンは、これまでに多くのソーシャルビジネスを創出してきた。その一方で、社会課題の解決を望んでいたり、ソーシャルビジネスに興味を持っていたりしても、実際に起業するには大きな壁がある。「どうすれば、もっと多くの社会起業家が生まれるだろうか」という課題意識のもと、同社が2018年に創設したのが後述するボーダレスアカデミーである。同アカデミーは、多くの人が安心してソーシャルビジネスに挑戦できる社会を目指している。ボーダレス・ジャパンがこれまで培ってきた独自のメソッドや実践的なノウハウをもとに、起業家を養成する講座やプログラムを提供している。
ボーダレス・ジャパンは、2020年度休眠預金活用事業の資金分配団体である九州地域ソーシャルビジネス・コンソーシアム(公益財団法人九州経済調査協会/一般社団法人ユヌス・ジャパン)が実施する「ソーシャルビジネス循環モデル地域形成事業5」の実行団体6に採択されている。同社は、休眠預金活用事業を通して、ボーダレスアカデミーの卒業生や一般の社会起業家を対象に、資金面や経営面ならびに場づくりの支援を拡充する仕組みを構築している。全国から、社会課題を解決する事業が生まれる社会づくりに取り組んでいる。

1 事業代表者:半澤節
2 代表者:田口一成、本社:東京都新宿区
3 親会社を中心に、グループ傘下の子会社、関連会社等の意思決定を統一し、大規模組織であるかのように経営を行う体制を指す。
4 スタートアップスタジオでは、各分野の専門家が事業立ち上げに必要なサポートを提供している。バックアップスタジオでは、資金調達・経理・人事・労務・法務等、経営に必要な要素をサポートしている。
5 九州地域(九州・沖縄・山口)を対象とした、休眠預金等活用制度に基づく助成事業。指定活用団体である一般財団法人日本民間公益活動連携機構より、公益財団法人九州経済調査協会と一般社団法人ユヌス・ジャパンが資金分配団体に採択され、実施している。助成事業を通して、ソーシャルビジネス先進地域の創出とネットワーク化を目指している。出典:公益財団法人九州経済調査協会ウェブサイト「休眠預金等活用制度に基づく助成事業」(https://www.kerc.or.jp/ksbc/)2023年5月1日参照
6 資金配分団体から採択を受けて、活動を実施する法人や民間団体等を指す。

このケースは、株式会社ケース・ラーニングが、九州地域ソーシャルビジネス・コンソーシアムの監修のもと作成した。ケースの記述は、経営管理上の問題点を例示するものではない。本ケースの作成にあたっては、ボーダレスアカデミーの半澤節代表をはじめ、社内外の関係者の方々にご協力いただいたことに感謝したい。